ビアスタイルを知ろう!<9>
【トラピスト】
世界には、その土地の気候や文化に根ざしたビールがたくさんあります。なかでも、独特な歴史と文化を持つのが、修道院で造られるビール「トラピスト」です。
ヨーロッパでは昔、生水を飲むとペスト菌やコレラ菌に感染したことから、修道士たちは民衆にワインやビールを飲むことをすすめてきました。また、病院の役割も果たした修道院は、栄養豊富で薬草を使ったビールを薬としても利用しました。そんなことから、修道院のビールは民衆のあいだに広まっていき、知られていくようになったのです。
そんな修道院で造られるビールのうち、トラピスト会修道院で造られる上面発酵ビールが「トラピスト」です。もともとトラピストは、修道院の中でしか飲むことができませんでしたが、1950年代になると民間の醸造所がトラピストを真似たビールを造るようになりした。
しかし名前の乱用と品質保持のため、トラピストは法的に保護されることになります。以降、トラピスト会修道院が認めたビールのみ「トラピスト」を名乗ることが許され、それ以外は「アベイ(修道院ビール)」と呼ばれるようになります。
では、トラピストを名乗れるビールは、どのように決められているのでしょう? その基準は以下の3つです。
- 修道院の敷地内で醸造されていること
- 修道士が醸造、または醸造管理に関わり、味などについて決定権を持っていること
- ビール販売で得た収益を修道院の運営管理に使い、余剰分は慈善事業に充てること
これらの条件を満たして、初めて「トラピスト」を名乗ることができるのです。
ちなみに、修道院でビールが造られたのは、ベルギーのシメイにあるスクールモン修道院が始まりだといわれています。そして現在、トラピストを名乗ることが許されているビールが造られているのは、世界で12カ所の修道院だけです。
そんな歴史と文化が育んだ「トラピスト」。聖杯型のグラスでじっくりと味わってみてはいかがでしょう?
ビールは「発酵」によって
味わいが変わる?<1>
【上面発酵】
麦やホップなどから作られる麦汁のなかの糖類を酵母が分解して、炭酸ガスとアルコールを生成する「発酵」によって作られるお酒がビールです。その発酵には「上面発酵」「下面発酵」「自然発酵」の3種類があり、発酵の仕方によってできあがるビールの種類が変わってきます。
そこで今回はその中のひとつ「上面発酵」について、解説していきましょう。
「上面発酵」とは、発酵が進むと麦汁の表面に酵母が浮かび上がる酵母を使った醸造方法です。発酵温度が15~20℃ほどと比較的高く、3~4日間という短い期間で発酵が終了します。
この上面発酵で作られるのが「上面発酵ビール」「エール」と呼ばれるビールです。非常に歴史のあるビールで、イギリスやベルギーでは、今も多くの人に愛されています。「エール」「IPA」「ヴァイツェン」「ホワイト」「ホワイトカクテル」「トラピスト」「アベイ」「スタウト」「ポーター」が、上面発酵ビールに属するスタイルです。
味わいは、フルーティーなものが多いですが、味や香りに多様性があるのもこのビールの特徴です。長い歴史のなかで、作られてきた地域の風土や生活が反映され、個性的でバラエティーに富んだビールが育まれてきました。
冷やして飲んでもおいしいですが、香りを楽しむために10℃以上の温度で味わうのがいいと言われています。よくビールは“ノド越し”や“キレ”だと言われますが、上面発酵ビールで、芳醇な味と香りをじっくりと味わってみてください。
<代表的な上面発酵ビール>
- クローネンブルグ ブラン(フランス)
- サミエルスミス スタウト(イギリス)
- ヴァイエンステファン へフヴァイス(ドイツ)
- シメイ ブルー(ベルギー)
- 白濁(ベルギー)
- IPA 100(イギリス)